ノスタルジー鈴木の「むろん、ストリートで!」

ストリート・ムシャリスト〈ノスタルジー鈴木〉が発見した素敵なサムシングについて大いに語ります

行ってきました、市本に。

「市本(いちぼん)」をご存知でしょうか。


「市本」とは、

主に社会人や大学生の方を対象に、本を介した学びと交流を促進し、働きながらも学び続けていける環境の醸成や新たな交流の機会創出を目的とした施設です。
気になる本を読んだり本に関するイベントに参加するなどの新たな学びと交流の機会を提供します。

出所:https://www.city.ichikawa.lg.jp/edu12/0000377465.html

というものです。2021年11月3日にJR市川駅前にオープンしたばかりの、文化的な体験を利用者に提供する施設ですね。

 

その市本で、クリスマスを間近に控えた12月23日の夜に開催された初の読書会に参加しました。

 

読書会では、あらかじめ決められた1冊の本について語り合うことが多いのですが、この読書会は、参加者(8名)が、紹介したい本、お勧めしたい本を1冊持参し、
①その本との出会いについて
②その本の内容について
話すという形式で行われました。


初対面の参加者同士でしたが、ファシリテーター川上洋平さんによる進行が巧みなこともあり、また、皆が本好きということもあって、大いに盛り上がりました。


私は、持参する本を選定する際に、思い入れのある写真集にしようと決めていました。しかし、市川市にできた新しい施設で初めて行われる読書会には、「市川市に住んでいたり、市川市の職場で働いている、学校で学んでいる人が参加するであろうから、自分が市川市で活動していることと関連する本の方がふさわしい」と思い、持参する本を直前に変更したのでした。

その本は、ベルリン在住の香山哲さんによるエッセイ漫画、『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』です。

 

本稿では、私が読書会に持参したこの作品を紹介します。

 

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内容には、香山さんの実体験や取材を通じて知った事実を含むものの、すべてがノンフィクションというわけではなく、あくまでも創作であり、虚実が入り混じっています。

人物の描き方が独特で、人間とは少し異なる、宇宙人や獣人、怪人を思わせる風貌をした人物(書影の表紙に描かれている人物)たちが、ベルリンの地で生活し、交流し、活動する、という漫画です。Web上で公開された作品が書籍化されたもので、本作はシリーズの2作目に当たります。

 

この作品では、ベルリンに住むことになった主人公が、仲間たちと、居場所づくりを行う過程が描かれています。多様なバックグラウンドを持つ人が暮らす街に、誰かのための居場所をつくることは、まちづくりそのものだ――この本を読み進めながら、そう思いました。主人公(著者の香山さんを投影した人物)は、日本からベルリンへの移住者であり、ドイツ語を自由自在に操れるわけではありません。「ずっとそこに住み続けている市民」ではない主人公が、たぶんドイツ人だという人物や、ウクライナからやってきたデザイナー、コロンビアで法を学んだ経験を持つ文筆家などの仲間と共に、自分が住む街を、今よりも住みやすい場所にするために活動するのです。

 

メンバーは、誰も「こういう活動」(街に絶対にあった方が良いと思う場をつくるなどの、地域活動)をやったことがないのですが、地下空間の運用方法を募集していたところに、シャワーとランドリーを備えた部屋をつくることを提案したところ、この案が採用されたことから、「誰でも最初は素人なんだし、わかる人に相談しながらやろう」という気楽な構えで取り組むのです。

 

作中で場づくりに取り組むメンバーの中に、生粋のベルリン市民はいないと思われますが、そんなこと(その人の出自など)はどうでもよく、やりたいから、やるべきだと思うからやっています。

 

市民による地域活動、まちづくりは、湯浅誠さんの言葉を借りるならば、「できる人が、できることを、できるときにやる」という性質のものであり、言うまでもなく、「やりたい人がやる」というものでしょう。これが、ごく当たり前のことであるということを、私はこの作品からのメッセージとして受け取りました。

 

彼らが作り上げた場所がオープンして、約1年が経過した頃、メンバーが「仕事でも遊びでもない活動」について語り合う場面で、このようなことを話し合います。

  • 自分たちにどんなことができるか
  • 自分たちにどんな余裕があるか
  • 街が何を目指しているか
  • 継続できなくても他にもやることはある
  • 他にも色んなグループが活動している
  • 義務でも競争でもどちらでもない
  • とにかく無理しない

私たちフリースタイル市川でも、このようなことを定例会議の場で、緩い雰囲気の中、話し合っています。それぞれ自分の仕事があり、家庭があり、私生活がある中で、NPO法人のメンバーとして、時間を割いて活動しているため、「とにかく無理しない」ということは重要で、義務感が強くなりすぎると、仕事と似たものになってしまい、意欲の低下につながるかもしれません。

 

作品中、ベルリンにあるシャワー・マップをつくるという場面で、メンバーがこれが不要になれば最高、という話をするのですが、私たちのNPO法人の活動も(たとえば、フードパントリーのマップが)必要のない状態になることが理想です。

 

これからもフリースタイル(自由形)なまちづくりを続けていこうと思います。